2024.03.23

贈答文化の歴史から
最新カジュアルギフトまで丸わかり!
日本の贈り物 今昔物語

春先は卒業式や入学式、就職、異動、引っ越しといった人生の節目となるイベントが盛りだくさん。お礼やお祝いにギフトを贈る機会も自然と多くなってきますよね。そこで今回は、贈り物の今と昔をひもときながら、時代に合わせて変化する“ギフトのかたち”について考えていきます。

贈りもののイメージ画像

1.日本の贈答文化は“神様への捧げ物”がルーツ?

日本には四季折々の行事をはじめ、誕生日や結婚、出産、お悔やみ、お見舞いなど、日常のそこかしこにギフトを贈り合う習慣が根づいています。世界各国にも贈答文化は存在しますが、日本の風習はとりわけ複雑で独自色豊か。このような独特の慣習は一体なぜ生まれたのでしょうか?今回はさまざまなルーツの中から、代表的なものをご紹介したいと思います。

贈答文化の歴史は古く、貨幣経済よりも前から存在していました。縄文時代、私たちの祖先は集団生活を営みながら、狩りや採集によって食べ物を得ていました。人々は自分が仕留めた獲物を周囲の仲間と分け合うことがあったようです。いわゆるお裾分け、助け合いの精神が最古のギフト習慣を育んだとも言えますね。

もうひとつ、忘れてはならないのが“ギフト=神様への捧げ物”という考え方です。太古の昔、農耕民族だった日本人は、農作物の成長に大きな影響を及ぼす天候や気候に一喜一憂していました。災害や凶作は生命に関わる一大事で、人々は天災が起きないよう、五穀豊穣を祈って神に供物を捧げたのです。
神への贈り物は「神饌(しんせん)」と呼ばれ、収穫した穀物や野菜、果物、魚介、これらを原料に造った酒などが供えられました。祈祷の後には、その場に集まった者同士が神饌を分け合って飲食する「直会(なおらい)」も行われたそうです。
人々は直会を通して神との距離を縮めるだけでなく、自然への畏怖や収穫への感謝の思いをコミュニティ間で共有し、自分たちが暮らす地域社会の結束力を高めようとしました。神饌や直会は長い歳月の間も脈々と受け継がれ、お祭りや年間行事にともなう儀礼として残っています。実は正月のおせち料理や端午の節句(5月5日)の柏餅、重陽の節句(9月9日)の栗ごはんも、ハレの日に食べる直会のひとつ。いにしえの人々の祈りは、私たちの身近に今も息づいているのです。

※神と人が同じ食物を味わうことにより安泰を得ようとする儀式。共神共食(きょうじんきょうしょく)や神人共食(しんじんきょうしょく)とも呼ばれます。

神社のイメージ画像

2.奈良・平安〜鎌倉・室町・戦国時代のギフト事情

奈良・平安時代になると、貴族が朝廷の実権を握り、華麗な王朝文化(国風文化)が花開きます。身分制度がより強化される中で、贈り物は儀礼としての色彩が濃くなり、社会的慣習として定着していきました。
さらに武士が台頭した鎌倉時代以降は、馬や武具(刀剣、鎧など)といった戦いの象徴が贈り物として好まれるように。新興勢力である武士は貴族階級に対抗し、実力をアピールする手段として贈り物を利用したのです。この新しい贈答文化は武士の家と家とを強く結びつけ、武家同士の政略結婚へと発展していきました。結納に代表される婚礼の習わしも、武士が支配する室町時代に確立されたと言われています。

ひとくちメモ

その昔、結婚式の「引き出物」は馬だった!?

結婚式で新郎新婦がゲストに贈る「引き出物」。もともとは平安時代の宴席で、お土産に馬を贈ったことが語源になっています。贈り主が屋敷の庭に馬を引き出してお披露目したことから、宴会のお土産=「引き出物」と呼ばれるようになったとか。
現代の価値観ではびっくりするほど高価な贈り物ですが、当時の人は相手の歓心を買い、信頼を勝ち取るためにそれほど必死だったのですね。
時代が下り、貨幣が流通し始めた室町の頃になると、引き出物は馬からお金へと変化します。こうした金品の贈り物は“馬の代わりに贈る品”という意味合いで、「馬代(うましろ)」「代馬(だいば)」とも呼ばれたそうです。

馬のイメージ画像

3.江戸時代に贈り物のしきたり・マナー化が進む

江戸時代に幕藩体制が確立され、社会が安定してくると、贈り物の義務化に拍車がかかります。諸国の大名は領地支配を認められているお礼として、将軍家に地元の特産品を献上するようになりました。たとえば信州はそば、群馬はこんにゃくとねぎ、九州は砂糖、北海道は塩鮭という風に、全国各地の山海の幸が幕府に届けられたそうです。受け取った将軍も決してもらいっぱなしにはせず、きちんと礼状を返していました。これを受けて一般的な武士階級の間でも、自分が所属する組織の組頭に贈り物をするしきたりが浸透していったそうです。
経済的に力をつけた商人たちにも贈り物の習慣は広まっていきました。商人の世界では、代金を後払いする約束で売買を行う「掛け売り」が一般的だったため、お盆や年末に半年分の支払いを精算するタイミングで、得意先にお礼の品を贈るスタイルが定着しました。これがのちにお中元やお歳暮へと姿を変えていくのです。

江戸城イメージ画像
全国の大名が献上品を送った江戸城(現在の皇居)

4.明治〜現代の贈り物はカジュアル志向

日本が急速に近代化した明治時代。文明開化の影響を受けて、東京や横浜、神戸などの大都市では積極的に西洋の文化が取り入れられるようになりました。現代でもおなじみのクリスマスやバレンタインデーはみな明治以降に広まった欧米発祥のギフトイベントです。贈答習慣にも変化が訪れ、従来の儀礼的な贈り物だけでなく、よりカジュアルにプレゼントを贈って楽しもうとする風潮が生まれました。
このような贈り物のカジュアル化は、フォーマルなギフトの世界にも徐々に波及していきました。戦後に誕生したカタログギフトは、受け取る側が好きな時に好きなものを自由に選べる点が画期的で、冠婚葬祭の引き出物としても人気を呼びました。

イマドキの贈り物は、ちょっとしたお礼やお返しを贈り合うプチギフトが主流になっています。私たちの生活様式も多様化が進み、「モノ(品物)を買うより、コト(体験)を大事にしたい」と考える人が増えました。こうしたトレンドをふまえて、レストランの食事や旅行をはじめ、エステ・スパ、エンターテインメントなど、ちょっぴり贅沢な気分が味わえる体験型ギフトも需要が拡大しています。
また、近年はSNSが普及し、いつでも気軽にコミュニケーションがとれるようになったため、親しい友人同士でも住所やメールアドレスを知らないことが当たり前になりつつあります。そんな令和の交流スタイルに合わせて、SNSアカウントにURLを送るだけで簡単に贈り物ができる「eギフト」サービスも登場。新たな贈答のかたちとして注目を集めています。

それぞれの時代のニーズに応じて変わり続ける贈答文化。しかし、そこにはいつも「相手に喜んでもらいたい」という人間の心が宿っています。たとえば、これまでお世話になった両親や上司に感謝の気持ちをこめて。あるいは、一人暮らしを始める友人に新生活のお祝いとして。どんな時も、贈る気持ちは大切にしていきたいですね。

デジタルギフトのイメージ画像

《出典元・参考文献》
農林水産省「行事と食文化」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/culture/pdf/08_gyoji.pdf
もりおか歴史文化館「江戸 大名の贈り物」
https://www.morireki.jp/blog/event/3183/

三重県「伊勢商人の活躍と三井高利の商法」
https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/rekishi/kenshi/asp/arekore/detail.asp?record=15

歌舞伎公式総合サイト 歌舞伎美人「将軍だって、届けばうれしい歳暮祝い」 
https://www.kabuki-bito.jp/special/food/secom-story/post-story-25/3/

一般社団法人ギフト研究所「ギフト行動のメカニズム」
https://note.com/gri902/n/nd69165f8deac

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