2023.10.21

わっぜうまか!知ってるようで知らない鹿児島の食文化

温暖な気候と雄大な自然に恵まれた鹿児島は、バラエティ豊かな食の宝庫。南北に長い海岸線がのび、黒潮が流れる一帯は、多種多様な魚介が獲れることで知られています。県の中央部には、桜島や霧島連山などの火山が点在。昔からたびたび噴火があったため、鹿児島を覆う土の約6割は火山灰質のシラス台地です。水はけがとても良く、サラサラとした土壌のシラス台地は、さつまいもや桜島大根といった野菜作りに最適な条件が揃っています。
また、鹿児島は古くから海上貿易の重要な拠点でもありました。オランダをはじめとするヨーロッパ諸国や中国、朝鮮、さらには琉球との交易を通じて、さまざまな海外の文化が伝来。中世から近世にかけては島津氏が南鹿児島を治め、国外の文化や技術を広める施設が積極的に建てられました。
このような地理的・歴史的背景のもと、個性あふれる独自の食文化が花開いていったのです。それでは、鹿児島の特色を活かした食材や料理を見ていきましょう!

鹿児島特産品マップ

1.豊かな海が育んだ海の幸

南北約600kmもの広い海原と水深200mを超える錦江湾(鹿児島湾)、多くの離島に恵まれた鹿児島は天然の好漁場です。黒潮と対馬海流という2つの暖流が交わる海域のため、豊富な種類の魚介が数多く水揚げされます。代表的な漁港としては、枕崎や山川、東町、鹿児島、串木野などが有名です。
遠洋マグロのはえ縄漁で栄えた鹿児島は、養殖黒マグロの生産量が全国トップクラス。県内各地の入江や湾では、地形を活かしたブリの養殖もさかんで、日本一の生産量を誇ります。黒潮に乗って春と秋に大回遊するカツオは、鹿児島を代表する魚介のひとつ。枕崎と山川は全国のカツオ節シェアの約7割を占める名産地として知られています。
また、鹿児島は日本有数のキビナゴ産地でもあります。とれたてのキビナゴを手開きにした刺身は、鹿児島ならではの郷土料理。菊の花をかたどったキビナゴの「菊花造り」は見た目も華やかで、酢味噌につけて食べれば美味しさも格別です。

鹿児島県特産品01

2.火山が生んだ伝統野菜

シラスとは、火山噴火時の火砕流や空中に舞いあがった火山灰、小石などが堆積してできたものを指します。鹿児島で火山といえば真っ先に桜島が思い浮かびますが、シラス台地は桜島の噴火によって生まれたわけではありません。
約2万9000年前、錦江湾周辺で大きな噴火が起こり、姶良(あいら)カルデラという凹んだ地形ができたのです。周囲には火砕流が押し寄せ、火山灰や軽石が降り注ぎ、広大な台地を形成しました。やがて川の水が土を削り、現在のようなシラス台地になっていったと考えられます。
保水性が低く、やせた土壌のシラス台地は稲作に不向きとされています。さらに鹿児島は台風に見舞われることも多かったため、乾燥にも風雨にも強い農作物を育てる必要がありました。さつまいもや桜島大根のような鹿児島特有の伝統野菜が誕生した背景には、このような理由があります。
日本一の生産量を誇るさつまいもは、1700年前後に琉球から持ち込まれたのが起源とされます。角切りにしたさつまいもと米を炊いた「からいもごはん」、つきたての餅に蒸したさつまいもを混ぜた「からいもねったぼ」は郷土料理として親しまれています。
桜島大根は200年以上前から栽培されている桜島の特産品。通常10kg前後で、大きなものでは20kgを超える世界最大級の大根です。ミネラルたっぷりのシラス土壌で栽培することにより、みずみずしく大きな大根に育つと言われています。

※農林水産省「令和4年度いも・でん粉に関する資料(1 かんしょの生産等/イ 令和4年産かんしょの主産県収穫量)」より引用

(左)名峰・開聞岳とさつまいも畑 (中央)種子島産の安納芋 (右)桜島大根

3.日本屈指の肉王国

一年を通して温かく、広大な畑地に恵まれた鹿児島は、日本屈指の畜肉王国でもあります。県の農業産出額は2017年〜2022年の5年連続全国2位で、このうち約6割を畜産物が占めています。肉用牛・豚・鶏の飼育数は堂々の全国1位(2023年)。「かごしま黒豚」「鹿児島黒牛」「かごしま地鶏」ブランドは全国的に人気が高く、品質の良さにも定評があります。
かごしま黒豚の歴史は古く、約400年前に琉球から持ち込んだのがルーツとされます。
大自然の中、地元産のさつまいも入り飼料を食べてのびのびと育った黒豚は、ジューシーな旨みがたっぷり。筋繊維がきめ細かく、歯切れが良いのも大きな特徴です。
鹿児島は黒毛和牛の生産頭数でも日本一に輝いています。現在の黒牛は羽島牛・加世田牛・種子島牛に改良を重ねたもの。まろやかなコクと濃厚な旨み、とろけるような食感は料理のプロもうなるほどです。2022年の全国和牛能力共進会では9部門中、6部門で1位を獲得。内閣総理大臣賞も受賞しました。
薩摩鶏(さつまどり)は国の天然記念物で、江戸の昔から愛されてきた鹿児島の固有種。この薩摩鶏を父方に持つ “さつま若しゃも”“黒さつま鶏”“さつま地鶏” の3種は「かごしま地鶏」と総称され、一羽一羽丹精込めて育てられています。

鹿児島県特産品03

4.薩摩伝統の焼酎文化

鹿児島でも16世紀の初めには、米・粟・ヒエ・キビなどの穀類を原料とする蒸留酒が造られていましたが、火山灰や軽石状の粗い砂利が混じったシラス台地は稲作に適さない土地柄でした。このため米がベースとなる清酒の代わりに、さつまいもを使った焼酎が造られるようになったのです。芋焼酎の醸造を積極的に推し進めたのは、幕末の薩摩藩主・島津斉彬でした。
とはいえ、斉彬は飲酒用に芋焼酎造りを奨励したわけではありません。当初は西洋式の武器を造るのに、大量の高濃度アルコールが必要となったからでした。
慢性的な不作に悩む薩摩藩にとって、米は大変な貴重品。武器製造の原料として供出させれば、より深刻な米不足を引き起こすのは目に見えていました。そこで斉彬は、安価で手に入りやすいさつまいもを活用し、アルコールを造ることを思いつきます。これが、現在の芋焼酎のルーツとなりました。
明治時代に酒税法で禁止されるまで、鹿児島県内の各家庭では、味噌や醤油のように焼酎が造られていたそうです。その後、焼酎の醸造は免許制になりましたが、今も鹿児島には日本一多い111軒もの焼酎蔵があります。原料となるさつまいもは煮たものを使うのが一般的ですが、焼いたものを使用したり、米麹ではなく芋麹を用いた100%芋の焼酎もあったりとバラエティに富んでいます。
かつては「芋焼酎=香りが強い」というイメージがありましたが、最近ではさまざま食事と一緒に楽しめるよう、すっきりとした味わいのものが多くなっています。
鹿児島県民は焼酎をお湯や水などで割って飲む人が多いです。地元では、「黒ヂョカ」と呼ばれる平たい陶磁器の土瓶を使うのが伝統的な飲み方。黒ヂョカに焼酎を注ぎ、弱火でじわじわ温めれば、まろやかな口あたりとふんわり広がる芳醇な香りがよりいっそうアップします。

鹿児島県特産品04
(左)芋焼酎のお湯割り (右)黒ヂョカ

 

5.鹿児島の醤油はなぜ甘い?

旅行や出張などで鹿児島を訪れた人は、醤油が甘いことに驚きます。全国的にも九州の醤油は甘いと言われますが、同じ九州の中でも南に行けば行くほど、甘みは強くなります。九州の南に位置する鹿児島の醤油は、とりわけ甘さが際立っています。

そもそも、九州の醤油はなぜ甘いのでしょうか?
その理由として、独特の「砂糖文化」が挙げられます。日本が鎖国をしていた江戸時代、長崎の出島では例外的にオランダとの貿易が行われていました。長崎〜佐賀〜小倉をつなぐ長崎街道は別名「シュガーロード」とも呼ばれ、沿道では砂糖を使った料理や菓子の店が流行っていたそうです。
17世紀に入ると、琉球(沖縄)や奄美地方を中心にサトウキビが栽培され、薩摩藩は黒糖を年貢として徴収するようになりました。同時代の『薩摩風土記』には、「そはは至ってよい。さるにいれ出す、したあじあまし、江戸者はくいにくし(蕎麦はざるに盛られていて良いが、下味が甘く、江戸から来た者には食べにくい)」と記されており、蕎麦のつけ汁が甘かったことがわかります。当時の砂糖は貴重品でしたが、都市部ではここぞという時のおもてなし料理に砂糖を使ったという話も残っています。
このように、長崎を通じて輸入された砂糖が比較的手に入りやすかったこと、サトウキビ作りがさかんで他の地域より砂糖が身近だったことが、九州の「甘口文化」を形成する要因になったと考えられます。

それでは、鹿児島の醤油が九州の中でも特に甘いのはなぜでしょうか?
鹿児島の醤油が甘くなっていったのは、戦後だと言われています。食糧統制が廃止され数年が経った1955年(昭和30年)前後に、他県の醤油と差別化を図るべく、地元業者によって新しい甘口醤油が開発されました。これが鹿児島県民の嗜好にかない、市場に定着していったことが、甘口醤油の普及につながったそうです。

鹿児島県民が甘口醤油を好む理由については諸説あります。
1つ目は、鹿児島のように温暖な地域は寒冷地に比べて消費カロリーが多く、それを補うために甘い醤油が好まれたという説です。ちなみに2015年(平成27年)〜2022年(令和4年)の間、鹿児島の砂糖消費量は7年連続の全国1位※。甘口文化がしっかり根づいているので、甘口醤油が広まっていくのも自然というわけです。
2つ目は、沿岸で獲れた新鮮な魚を刺身にして食べることが多く、とれたての魚には甘口醤油がよく合ったからというもの。鹿児島名物の鶏刺しも甘口醤油と相性が良いことから、食習慣との強い結びつきも考えられます。
3つ目は、辛口の薩摩焼酎には甘い料理が合ったからという説。蒸留酒の焼酎には糖分が含まれていないため、おつまみとしては甘口醤油で味つけした料理の方が美味しく感じられます。食事と酒は互いの味を補い、引き立て合う関係なので、こちらの説にも説得力がありますね。
鹿児島の人々が長年慣れ親しんできた甘口醤油。現地を訪れる機会があれば、ぜひ味わってみてください!

鹿児島県特産品05

※総務省統計局「家計調査」より引用
「家計調査」は主に各都道府県の県庁所在地における平均消費量の統計ですが、本稿では各都道府県のデータとして掲載しております。

〈出典元・参考文献〉

農林水産省 うちの郷土料理
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/area_stories/kagoshima.html

農林水産省 かんしょの生産等
https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/imo/attach/pdf/r4shiryo-3.pdf

鹿児島県
https://www.pref.kagoshima.jp/kids/bunka/shokubunka.html

鹿児島県特産品協会
https://www.k-p-a.jp/products/pro-food/

鹿児島特産品ねっと かごいろ
https://kagotokunet.shop-pro.jp/

かごしまの食
https://www.kagoshima-shoku.com/kagoshimanoaji

鹿児島県観光サイト かごしまの旅
https://www.kagoshima-kankou.com/

鹿児島県水産加工品販路開拓・ものづくり推進協議会
https://kagoshima-suisankakou.com/locality/

農畜産業振興機構
https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_002775.html

JA鹿児島県経済連
https://www.karen-ja.or.jp/brand/kagoshima-kuroushi/

鹿児島酒造組合
https://www.honkakushochu.or.jp/2323/

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